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続 精神科医だから、って相談された話 一睡もできないとは

一見の人から電話で相談を受けた話の2回目

相談内容

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西日本にある実家に住む、50代後半のお母様のこと。
旦那さんと二人暮らしだが、
旦那さんは本人の状態があまりにひどく、一緒にいられず、
隣県にある自分の会社へ行ってしまい、現在は別居状態だという。
10年来の”うつ”が悪化しており、「全く一睡もできていない」と訴えている。
一方で、朝になると薬が残っていることもあり、起きられない。
起きてもぼうっとしている状態が続いている。

”うつ”になった”原因”はいくつもある。
かつて自分で事業をしていたが、その際の仕事上のパートナーに裏切られた経験が”トラウマ”になっている。
また、結婚当初の旦那さんの行動についても”トラウマ”があり、そのことをいまだに許せずにいる。

「一睡もできない状態が続き、”うつ”がひどい」ため、A総合病院に入院した。
しかし、入院中もやはり眠れない状態が続き、
1か月ほどで「もう家に帰りましょう」という判断になり、自宅に戻った。
だが、帰宅後も症状は全く良くなっていない。

ご子息である相談者のもとに、そんなお母様から電話がかかってきて、
「つらい」「苦しい」と繰り返し訴えられる。
相談者は「一体、自分はどうしたらいいのだろう」と困り、考えあぐねているという。
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(この事例はファンタジーです)

「原因」という言葉


→まず、今の状況で対処できることを整理する手始めとして、
言葉の使い方について。
「なんでそんなつまらないことを言うのか」
と思うかもしれないけれど、
まず言葉の使い方が大事です。

→あなたは今、お母様がそのように苦しんでいらっしゃる“原因”が、
過去の事業パートナーに裏切られたこと、
そしてお父様と結婚当初にぶつかった経験にある、
とおっしゃった。
まず、その「原因」という言い方はやめた方がいい。

→「原因」という言葉は、
「これがあれば結果はこうなる」という、
1+1=2のような、固定された因果関係を指してしまう。
この言葉を使うことで、そうした考え方に囚われてしまう。

→そうすると、その過去の出来事が“原因”だとされた場合、
今の苦しい状況は変えられないし、
それは当然起こるもので、治りようがない、という話になりかねない。
“原因”なのだから、
それはすでに過去のことで、取り除くこともできないわけだから。

→でも、違いますよね。
治したい、変えていきたい。
今の状況を改善させたいわけですよね。
だとしたら、それは“原因”ではない。
それは“きっかけ”です。

→“きっかけ”であって、
過去にそうした傷ついた体験があった、ということ。
そのように言葉の使い方を変えることが、
本人の変化や状況の変化につながっていく。

→だから、まず“原因”という言い方を、
お母様はどうしてもしてしまうかもしれないけれど、
あなたはしない方がいい。
なぜかというと、
お母様がそれを“原因”として捉え続けることを変えていくためには、
まずあなたがそれを手伝わないことが大事だから。

→まずは、あなたから言葉遣いを変えていく。それが必要です。
お母様が傷ついた過去の出来事は“きっかけ”です。
はい。

「トラウマ」という言葉


→それから、同じように「トラウマ」という言葉についても避けるべき。
最近は一般の人も広く使うようになって、
「嫌なことがあって、それが強く残っている」
という意味で使われがちだけれども、本来は違います。

→「トラウマ」という言葉は、
もともとは、”その人が生きるか死ぬか、というような状況で負った、非常に深い心の傷”を指す言葉です。
深く傷つき、ごまかしたり、簡単に変えることのできないもの。
生きるか死ぬかの体験があったときに使う言葉です。

→例えば、
大震災で自分だけが生き残り、家族が亡くなってしまったとか、
交通事故で生死の境をさまようような体験をしたとか。
そういった深い心の傷、外傷体験を指します。

→「そんな意味で言っていない」と思うかもしれないけれど、
先ほどの“原因”と同じで、
「トラウマ」という言葉を使うと、
「深く、ひどく傷ついてしまって、回復がとても難しい」
という意味が自動的についてきてしまう。

→だから、“原因”と同じように、
“トラウマ”という言葉も、
そこまでいかない「すごく傷ついた出来事」に対しては使わない方がいい。
使うべきではない。
その言葉によって、その出来事から離れにくくなり、治りにくくなってしまう。

→過去の事業パートナーに裏切られたこと、
お父様と結婚当初にぶつかったこと。
それらは、お母様にとって確かにすごく傷ついた、嫌な体験であり、
ひどい思い出として残っている。

→それは「すごく傷ついた、嫌だった体験」ではあるけれど、「トラウマ」ではない。
トラウマではないから、忘れていけるし、乗り越えていける。
そのように言葉を使うべきです。

(もちろん、トラウマであっても乗り越えられないわけではないけれど、ここではそこまでの説明はしない)

「全く一睡もできない」という不思議


→これは気になるというより、もう不思議というか、矛盾している点。
お母様は「全く一睡もできない、眠れない」とおっしゃっている一方で、
「朝起きられなくて、ふらふらしている」と言っている。

→ということは、眠れているから起きられないわけで、
一睡もできていないわけではない。
言葉の表現として、おかしなことになっている。

→きっと、「眠れた感じがしない」「全く寝た気がしない」ということなのだろう。
お母様としては、とにかく「すごく眠れなくてつらい」という感覚なのだと思う。

→薬が朝まで残ってつらいということは、
薬の量としては、体に効く程度の量はすでに出ている。
それでも「全く眠れた感じがしない」、
ということなのだと思う。

入院したことの評価


→それでA総合病院に入院したわけだけれども、
やはり眠れなくて、一睡もできなくて、1か月ほどで退院してしまった。

→私は今、お母様を診察しているわけではないし、
A総合病院の医師がどのような医師かも分からないから、
断定的なことは言えない。
ただ、おそらく精神医学的に見て、
お母様は「絶対に入院が必要な深刻な状態」ではなかったのだと思う。

→医師の立場からすると、
ご本人が「入院したい」と希望したので入院にしてみたけれど、
「帰りたい」と言うので退院させた。
そういう経過だったのだろうと思う。

→もっと言えば、
「家に帰しても、それほどひどいことにはならないだろう」と、
A総合病院の主治医は判断しているのだと思う。

→精神科医、しかもA総合病院という、きちんとした医療機関の精神科であるならば、
その判断はまず妥当だと考える。
まともな精神科医には、
「これはどうしても入院させなければならない」
「放っておけない」という共通の基準がある。

→ざっくり言えば、生きるか死ぬかの状態、
あるいは素裸で踊り狂うような、明らかにめちゃくちゃな状態。
そういう場合には、本人の希望に任せることはしない。

→お母様の場合であれば、旦那さんを呼び寄せてでも入院させるし、
それが間に合わなければ、応急入院として、
医師の判断で短期間の強制入院を行うこともできる。

→それが行われていないということは、
お母様は「ある程度、本人の希望に任せてもよい状態」、
任せるしかない状態と判断されている、
ということだと思う。

続きます。